伊那紬に用いられる糸は南アルプスと中央アルプスに挟まれ、源流を諏訪湖に発する天竜川の豊かな水を用いて古くから養蚕がおこなわれてきました。
伊那紬は、この伊那谷の良質な生糸を使い、それに、通常の繭より大きい「玉繭(たままゆ)」からとれる玉糸、真綿から手で紡がれ紬糸、野生の繭からとれる天蚕(てんさん)糸や天蚕真綿糸など多彩な素材を組み合わせて手織によって作られた紬織物です。
信濃(長野県)の天竜川沿いでは、18世紀初めからすでに養蚕と織物が地場産業として興り、「信州、蚕の国、絹の国」として知られていました。蚕が繭を喰いやぶってでてきてしまい穴のあいた繭など、京都、名古屋などの消費地に出荷できない繭を引き、自家用として染め織りをしたのが伊那紬の始まりであると無言われています。
伊那紬は、松本紬、上田紬、飯田紬とともに、総称として信州紬と呼ばれることもあります。
長野県の織物生産は規模が小さく、生産量も多くありません。昭和50年ころには、長野県だけでも120軒ほどの工房があったということですが、現在に至っては長野県駒ヶ根市にある「久保田織染」が唯一の伊那紬の機屋となってしまいました。
織は、古くからこの地に伝わる高機(たかはた)で、丹念に織られています。
手織りの風合いが伊那紬の最大の魅力で、織った人の個性が表れるといいます。
また、草木染めに用いられる材料には地元で採れた、クルミ、カラマツ、ヤマザクラ、シラカバ、イチイ、リンゴなどが使われます。木から芽が出る前の冬の間に木を切り、皮をむいて保存しておきます。そして、これらの樹皮の煎じ汁に糸を何度も何度も浸けて染め上げていきます。
日本全国から集められた貴重な紬・絣織物の数々などを月替わりで展示しております。
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